[創作篇]
浅草を縄張りとする女掏摸・隼のお秀こと久山秀子が知人のすすめで自身の活躍を小説にして発表した、というテイスト。
日本発の女性推理小説家の一人とされる松本恵子が当初は男性名で活動していたのとは反対に、上記の設定で女性名を使って活動していたのが本作の作者である。作家仲間には男性である事を知られていたそうだが、著書の近影には着物姿の女性を載せるなど徹底して「女性作家」を演じていたそうです。
本名も経歴もハッキリしない、謎多き作家です。
・浮れている「隼」:男装して旅館へ泊まった隼お秀。そこで知り合った女中の三人が浅草のある場所で誘拐されここで働かせれていると語った。好奇心から隼はそれが事実か調べると…
→デビュー作。女性作家(と、世間では信じられていた)である事と設定の珍しさ(私小説風犯罪小説、とでもいうのか)もあって人気シリーズになったそう。
・チンピラ探偵:赤倉男爵が射殺された事件に興味を持った隼。生前、男爵から掏り取った紙入れと共に手に入った手帳を読んだ隼は「犯人は女じゃないかしら?」と思い探偵する事にした…
→乾児を率いる為には恋人がいると都合が悪い、という信念を持つ隼が密かに想う事になる池田忠夫初登場。ロマンスがあるからか、モノクロ無声映画にもなったらしい。
・浜のお政:横浜の中華街に縄張りを持つ詐欺師で美人局の「浜のお政」が文学青年を引っ掛ける話。
→隼のライバル登場。
・娘を守る八人の婿:四年前、第一回の女子聴講生としてT大学へ通っていた隼。そこの劇研究会の会員になった隼は会員の北町が書いた「娘を守る八人の婿」で令嬢役をする事になり…
→かけだしの隼。
・代表作家選集?:隼と乾児の由公が掏った四つの紙入れには、現金ではなく原稿が入っていた。もったいないので『新青年』に送った原稿とは…「闇に迷(まごつ)く/隅田川散歩」「桜湯の事件/鎗先(やりさき)潤一郎」「画伯のポンプ/興が侍(さぶら)ふ」「人口幽霊/お先へ捕縛」
→江戸川乱歩、谷崎潤一郎、甲賀三郎、小酒井不木。不木しか作品数多く読んでないから判らんけど、不木のは不木が書いたっぽい仕上がりになってるよ。探偵趣味倶楽部の会員の話っぽい。
・隼お手伝ひ:隼の身元引受人でもある秘密探偵の富田達観が引き受けた自殺事件。被害者の父親は自殺ではないと言い、また、警察も容疑者として被害者の師匠と愛人を拘留していた…
→読み返したけど毒殺方法がイマイチよく判らなかった…回し飲みしてた湯飲みにドウやって毒を盛ったかってとこなんだけど…多分被害者の手に付着してたんだよね、んで、媒体が三味線であったと。問題は三味線からドウして被害者の手にってとこで…穴開いてたのがポイントなんだろうけど、そんな穴開いたまま隼に渡しちゃう犯人って…そんな三味線処分しとけよぉ…
・川柳 殺さぬ人殺し:富田達観氏の談話。
・戯曲 隼登場(一幕二場):鉄道大臣になった子爵が随行員を連れて鉄道敷設予定地へ視察しに来た。そこは子爵が以前領地にしていた土地だった。子爵たちの下にやってきた村長は、子爵に熊を献上したいと言い出して…
→未だに自分の権力が生きていると自惚れる子爵と、厄介者の熊を処分し、村に鉄道が敷かれる見込みをつけられ喜ぶ村民たち…ははは、世間知らずの華族さまよォと思いきやウマイところはちゃっかり隼が持って行くオチ。
・隼の公開状:「戯曲 隼登場」を批判する批評を発表した西田政治への反論文。
・四遊亭幽朝(しゆうていゆうちょう):象潟署の高山刑事の尾行をまく為に入った寄席。そこの看板には四遊亭仙楽の名が。高座では仙楽が師匠の幽朝の話をしており…
→「隼お手伝ひ」に登場した仙楽再登場。なのだが…???怪談話の特集号に掲載されていたので、怪談話になっている…という事は、仙楽さんは既に鬼籍の人?隼幽霊に出会うって話なのかな?
・隼の勝利:渋谷で起きた女優殺しを調査する富田達観を手伝う事になった隼。事件には「浜のお政」も絡んでおり、更に小川三平こと池田忠夫も現れて…
→ロマンス再び。事件自体は実にあっけない結末なんだけど、様々な思惑が交錯してややこしい展開に。
・どうもいいお天気ねえ:隼お秀の妹のあたしは、姉さんと同じホテルの別部屋に住んで女学校に通っている。お友達としてフォックステリアとメキシコインコを飼っている―トイレのしつけを条件として―。ある日、犬と散歩に出かけると、金持ちとその取り巻きに遭遇した…
→隼の妹、久山千代子初登場。千代子本人の作品として掲載されたらしい。隼たちを実在の人物として活動させてるのがすごいぞ。
・刑事ふんづかまる:初夏、浅草で大規模なスリ狩りが始まった。隼の乾児である由公も兼吉も捕まってしまった。現行犯でなくても後日捕まえてしまうというが…
→隼を捕まえるのにやっきになってる高山刑事の執念よ…しかし見事裏をかかれたね!
・隼の薮入り:前作で刑事たちから一層睨まれるようになった隼組。息抜きに大阪へやってきた隼は、三人組のスリを見かける…
→大阪でも隼は隼なのであった。
・隼の解決:海浜ホテルで知り合った理学博士の桜井から、博士の研究室でプラチナが盗まれた話を聞いた隼。二人で散歩がてら品川を案内していると、博士は古道具屋にあった朝鮮煙管に興味を持ったらしいので隼がプレゼントした。その後見かけた工事現場でちょっとした事件が起きたが、翌日、その工事現場の監督が殺され…
→社会派。
・隼のお正月:正月早々高山刑事に目をつけられる隼。射撃の屋台で隣にいた男の蟇口を掏り取ったところを高山刑事に見付かったが…
→高山刑事、味方いなさ過ぎ問題。
・隼のプレゼント:隼が乗ったタクシーに石が投げ込まれる。石を投げた子どもを由公に尾行させ事情を聞くと、隼に似た女の運転する車に父親がはねられ片輪になったが慰籍料を二十五円で済まされた仕返しをしたかったのだと言う…
→新聞社の社会部長で隼シンパの津崎順一郎初登場。隼ものは反権威主義で小気味良いね。
・隼探偵ゴツコ:自殺しようとしていた母子を偶然助けた隼。亡くなった夫が残した掛け軸を蒐集家の伯爵に売ろうとしたが贋作だと言われた上、伯爵の持つ絵を盗んだと疑われ掛け軸を渡せば示談にしてやると奪われたのだと聞いた隼は、調査に乗り出した…
→津崎再登場。見込みが外れてしまったり、富田氏の助けを借りたり、「ゴッコ」なので隼は探偵としては素人なのね。
・隼の万引き見学:町を歩いていると、女中を連れた金持ちそうな女性を見かける。一緒にいた津崎の話では、彼女は代議士の妻なのだが盗癖があるのだという。面白そうなので彼女が万引きする所を見学しようと尾行する二人。彼女の万引きを見張るのが仕事だと言う刑事も見守る中、宝石を並べさせていた代議士の妻は反対に刑事が万引きしたと店員に告げ口を…
→「黒蘭姫」かと思いきや、万引き常習犯が刑事の万引きに気付くってゆう…しかしマァ皮肉な仕事だよなぁ…
・隼いたちごつこの巻:掏ろうとした相手に捕まった上に右手を折られてしまった由公。男の特徴を聞いた隼はその相手を探しに出かける…
→利き手を駄目にされた由公が(掏りでしか生計を立てられないので)隼組から出ていかねばならないと思い詰める中、みんなで養ってやると慰める隼…そして仲間たち…社会からはみ出した者たちの強い絆がちょっとじーんとくる。強持て無愛想顔の兼吉の優しさ…ギャップ萌えってやつか。
ひさやま・ひでこ(1905-?)
東京都生まれ。本名・片山襄 あるいは 芳村升。別名・久山千代子。
東京帝国大学国文科卒業後、国語教員として海軍の学校に勤務したらしいが、海軍兵学校の英語教員として芳村升の名があったらしく、経歴はよく判っていない。
1925年、『新青年』に「浮れてゐる「隼」」を掲載してデビュー。勤務先の関係から女性名で活動した。
「隼お秀」シリーズは37年まで発表したが、戦争へと進む時代状況により活動休止。55年「梅由兵衛捕物噺」を数編発表。
没年不詳。
浅草を縄張りとする女掏摸・隼のお秀こと久山秀子が知人のすすめで自身の活躍を小説にして発表した、というテイスト。
日本発の女性推理小説家の一人とされる松本恵子が当初は男性名で活動していたのとは反対に、上記の設定で女性名を使って活動していたのが本作の作者である。作家仲間には男性である事を知られていたそうだが、著書の近影には着物姿の女性を載せるなど徹底して「女性作家」を演じていたそうです。
本名も経歴もハッキリしない、謎多き作家です。
・浮れている「隼」:男装して旅館へ泊まった隼お秀。そこで知り合った女中の三人が浅草のある場所で誘拐されここで働かせれていると語った。好奇心から隼はそれが事実か調べると…
→デビュー作。女性作家(と、世間では信じられていた)である事と設定の珍しさ(私小説風犯罪小説、とでもいうのか)もあって人気シリーズになったそう。
・チンピラ探偵:赤倉男爵が射殺された事件に興味を持った隼。生前、男爵から掏り取った紙入れと共に手に入った手帳を読んだ隼は「犯人は女じゃないかしら?」と思い探偵する事にした…
→乾児を率いる為には恋人がいると都合が悪い、という信念を持つ隼が密かに想う事になる池田忠夫初登場。ロマンスがあるからか、モノクロ無声映画にもなったらしい。
・浜のお政:横浜の中華街に縄張りを持つ詐欺師で美人局の「浜のお政」が文学青年を引っ掛ける話。
→隼のライバル登場。
・娘を守る八人の婿:四年前、第一回の女子聴講生としてT大学へ通っていた隼。そこの劇研究会の会員になった隼は会員の北町が書いた「娘を守る八人の婿」で令嬢役をする事になり…
→かけだしの隼。
・代表作家選集?:隼と乾児の由公が掏った四つの紙入れには、現金ではなく原稿が入っていた。もったいないので『新青年』に送った原稿とは…「闇に迷(まごつ)く/隅田川散歩」「桜湯の事件/鎗先(やりさき)潤一郎」「画伯のポンプ/興が侍(さぶら)ふ」「人口幽霊/お先へ捕縛」
→江戸川乱歩、谷崎潤一郎、甲賀三郎、小酒井不木。不木しか作品数多く読んでないから判らんけど、不木のは不木が書いたっぽい仕上がりになってるよ。探偵趣味倶楽部の会員の話っぽい。
・隼お手伝ひ:隼の身元引受人でもある秘密探偵の富田達観が引き受けた自殺事件。被害者の父親は自殺ではないと言い、また、警察も容疑者として被害者の師匠と愛人を拘留していた…
→読み返したけど毒殺方法がイマイチよく判らなかった…回し飲みしてた湯飲みにドウやって毒を盛ったかってとこなんだけど…多分被害者の手に付着してたんだよね、んで、媒体が三味線であったと。問題は三味線からドウして被害者の手にってとこで…穴開いてたのがポイントなんだろうけど、そんな穴開いたまま隼に渡しちゃう犯人って…そんな三味線処分しとけよぉ…
・川柳 殺さぬ人殺し:富田達観氏の談話。
・戯曲 隼登場(一幕二場):鉄道大臣になった子爵が随行員を連れて鉄道敷設予定地へ視察しに来た。そこは子爵が以前領地にしていた土地だった。子爵たちの下にやってきた村長は、子爵に熊を献上したいと言い出して…
→未だに自分の権力が生きていると自惚れる子爵と、厄介者の熊を処分し、村に鉄道が敷かれる見込みをつけられ喜ぶ村民たち…ははは、世間知らずの華族さまよォと思いきやウマイところはちゃっかり隼が持って行くオチ。
・隼の公開状:「戯曲 隼登場」を批判する批評を発表した西田政治への反論文。
・四遊亭幽朝(しゆうていゆうちょう):象潟署の高山刑事の尾行をまく為に入った寄席。そこの看板には四遊亭仙楽の名が。高座では仙楽が師匠の幽朝の話をしており…
→「隼お手伝ひ」に登場した仙楽再登場。なのだが…???怪談話の特集号に掲載されていたので、怪談話になっている…という事は、仙楽さんは既に鬼籍の人?隼幽霊に出会うって話なのかな?
・隼の勝利:渋谷で起きた女優殺しを調査する富田達観を手伝う事になった隼。事件には「浜のお政」も絡んでおり、更に小川三平こと池田忠夫も現れて…
→ロマンス再び。事件自体は実にあっけない結末なんだけど、様々な思惑が交錯してややこしい展開に。
・どうもいいお天気ねえ:隼お秀の妹のあたしは、姉さんと同じホテルの別部屋に住んで女学校に通っている。お友達としてフォックステリアとメキシコインコを飼っている―トイレのしつけを条件として―。ある日、犬と散歩に出かけると、金持ちとその取り巻きに遭遇した…
→隼の妹、久山千代子初登場。千代子本人の作品として掲載されたらしい。隼たちを実在の人物として活動させてるのがすごいぞ。
・刑事ふんづかまる:初夏、浅草で大規模なスリ狩りが始まった。隼の乾児である由公も兼吉も捕まってしまった。現行犯でなくても後日捕まえてしまうというが…
→隼を捕まえるのにやっきになってる高山刑事の執念よ…しかし見事裏をかかれたね!
・隼の薮入り:前作で刑事たちから一層睨まれるようになった隼組。息抜きに大阪へやってきた隼は、三人組のスリを見かける…
→大阪でも隼は隼なのであった。
・隼の解決:海浜ホテルで知り合った理学博士の桜井から、博士の研究室でプラチナが盗まれた話を聞いた隼。二人で散歩がてら品川を案内していると、博士は古道具屋にあった朝鮮煙管に興味を持ったらしいので隼がプレゼントした。その後見かけた工事現場でちょっとした事件が起きたが、翌日、その工事現場の監督が殺され…
→社会派。
・隼のお正月:正月早々高山刑事に目をつけられる隼。射撃の屋台で隣にいた男の蟇口を掏り取ったところを高山刑事に見付かったが…
→高山刑事、味方いなさ過ぎ問題。
・隼のプレゼント:隼が乗ったタクシーに石が投げ込まれる。石を投げた子どもを由公に尾行させ事情を聞くと、隼に似た女の運転する車に父親がはねられ片輪になったが慰籍料を二十五円で済まされた仕返しをしたかったのだと言う…
→新聞社の社会部長で隼シンパの津崎順一郎初登場。隼ものは反権威主義で小気味良いね。
・隼探偵ゴツコ:自殺しようとしていた母子を偶然助けた隼。亡くなった夫が残した掛け軸を蒐集家の伯爵に売ろうとしたが贋作だと言われた上、伯爵の持つ絵を盗んだと疑われ掛け軸を渡せば示談にしてやると奪われたのだと聞いた隼は、調査に乗り出した…
→津崎再登場。見込みが外れてしまったり、富田氏の助けを借りたり、「ゴッコ」なので隼は探偵としては素人なのね。
・隼の万引き見学:町を歩いていると、女中を連れた金持ちそうな女性を見かける。一緒にいた津崎の話では、彼女は代議士の妻なのだが盗癖があるのだという。面白そうなので彼女が万引きする所を見学しようと尾行する二人。彼女の万引きを見張るのが仕事だと言う刑事も見守る中、宝石を並べさせていた代議士の妻は反対に刑事が万引きしたと店員に告げ口を…
→「黒蘭姫」かと思いきや、万引き常習犯が刑事の万引きに気付くってゆう…しかしマァ皮肉な仕事だよなぁ…
・隼いたちごつこの巻:掏ろうとした相手に捕まった上に右手を折られてしまった由公。男の特徴を聞いた隼はその相手を探しに出かける…
→利き手を駄目にされた由公が(掏りでしか生計を立てられないので)隼組から出ていかねばならないと思い詰める中、みんなで養ってやると慰める隼…そして仲間たち…社会からはみ出した者たちの強い絆がちょっとじーんとくる。強持て無愛想顔の兼吉の優しさ…ギャップ萌えってやつか。
ひさやま・ひでこ(1905-?)
東京都生まれ。本名・片山襄 あるいは 芳村升。別名・久山千代子。
東京帝国大学国文科卒業後、国語教員として海軍の学校に勤務したらしいが、海軍兵学校の英語教員として芳村升の名があったらしく、経歴はよく判っていない。
1925年、『新青年』に「浮れてゐる「隼」」を掲載してデビュー。勤務先の関係から女性名で活動した。
「隼お秀」シリーズは37年まで発表したが、戦争へと進む時代状況により活動休止。55年「梅由兵衛捕物噺」を数編発表。
没年不詳。
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