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[創作篇]
瓢庵先生捕物帖…書きたくて書いた訳ではなく書かされた、という水谷準のマゲもの。連載九回で終了し(その翌月号で掲載紙『新青年』は休刊)、『宝石』でシリーズを再開。全四十六編。
町医者の瓢庵を主人公に、捨児だったのを拾われ育てられている豆太郎、将棋仲間の香六(きょうろく。血気盛んでそそっかしい)と桂七(香六より年上で落ち着いている。左右の足の長さが違う)に加え、何故か横溝正史の「人形佐七」シリーズより人形佐七とその妻・お粂、手先の辰五郎が登場するのである。

・稲荷騒動:人形佐七の手先・辰五郎は盗賊の狐小僧を捕らえたが取り逃がしてしまった。捕縛に貢献した商家を逆恨みした狐小僧は、その家の家宝を盗むという脅迫状を送りつけてきた…
→シリーズ一作目。人形佐七の失敗談なので本家には掲載されない話という形で執筆されたもの。横溝さんは怒る事無く、逆に人形佐七に瓢庵を登場させたりしていたらしい。

・銀杏屋敷:身動き出来ない老人の死体が大銀杏の木に吊るされ槍で串刺しにされた上に長襦袢を着せられていた。被害者の主治医だった瓢庵は、佐七と共にその謎に挑むが…
→医者と岡っ引きの気を引く極めて効果的で労力いりまくる作業。瓢庵に見破られてるから無駄な労力だったが…

・女難剣難:泥酔して帰宅した瓢庵。翌朝、瓢庵と夫婦の約束をしたという若い女が押しかけてきて…
→ポー!チェスタトン!

・暗魔天狗(くらまてんぐ):これまで野外で五人殺した通り魔・暗魔天狗。しかし六人目の犠牲者は屋内で殺されて…
→チェスタトン的発想やな。

・巻物談義:入水自殺しようとした娘を助けた瓢庵と香六。娘の祖父が残した巻物を盗賊の観音小僧に盗まれた上に、母親もその一件が原因で死んでしまったと言う。巻物に隠された秘密とは…
→ハッピィエンド。

・般若の面:江戸の下町で恐怖となっている般若の面を被った殺人鬼。唐物家のおかみさんを殺し、大名から預かっていた薬師如来像を奪っていったが、何故かその家で飼われている猫まで殺していた…
→おかみさんかわいそう…

・地獄の迎ひ:抜け荷商売をしていた四人組の一人が処刑され、その息子が怨みを晴らす為残りの三人を殺害しようとしているらしい。殺害予告状通り、一人が弓矢で殺されて…
→策士だなぁ。

・ぼら・かんのん:瓢庵の知人で釣道楽者の小左衛門が釣った鯔の腹から出てきた観音像。手入れの為瓢庵に紹介された彫金師に預けたのだが、その観音像が盗まれてしまった…
→全然ハッピィエンドじゃない…

・へんてこ長屋:変わり者ばかりが住む通称・へんてこ長屋で金貸しの老婆が殺された。金の隠し場所を知っていそうな店子たちが容疑者となったが、歩く事の出来ない元指物大工、大男の山伏、見世物小屋でろくろッ首として出ている女、馬の足役で芝居に出ている男、にわか盲の按摩、猫の皮を売る男、留守がちな浪人と曰くありげな人物ばかりで…
→容疑者から早々に除外された人を意外な組み合わせで犯行可能にしてるのが面白いけど…多分瓢庵がおせっかい出さなくても共犯者同士でトラブルになってすぐバレそうだな…

・幻の射手:『金兵衛の命あと二十日』という殺人予告状を受けた金兵衛。隣人の御隠居に詮議を頼まれた瓢庵だったが…
→そっちかー!

・瓢庵逐電す:寺で発見された身元不明の死体。瓢庵の行方が知れない中、大岡越前気取りの男が人形佐七を向こうに回して事件を解決しようと…
→瓢庵、銭形平次、人形佐七、若さま侍の四人による架空座談会で紹介された事件の詳細とのこと。

・桃の湯事件:殺害された桃の湯の隠居。容疑者としてあげられた嫁は、かつて瓢庵に夢遊病の治療を受けていたが、病気が再発して隠居を殺したのかもしれないと服毒自殺を図ってしまう…
→とんでもない所に嫁いじゃったな…

・麒麟火事:放火事件の現場にいた娘は、友人宅で見た麒麟の置物に似た「火を吹く獣」が現れて火事になったと証言するが…
→とんでもねぇ親爺だな。

・岩魚の生霊:形見分けの釣竿で岩魚釣りに出かけた小左衛門。そこで怪異に見舞われ怪我を負った話を瓢庵は聞かされるが、形見分けの釣竿から血が流れたと聞いて前の持ち主の死に不審を抱く…
→ここまでくると小左衛門憎めんキャラだな。

・青皿の河童:二度も事件に巻き込まれた小左衛門が瓢庵と香六を誘って験直しの船遊びに出かけたが、投網で女の水死体を引き上げてしまう。女の身元が判明すると、河童に言い寄られて川に引き込まれたという目撃証言が…
→結局あの河童は誰のいたずらだったんだろう…

・按摩屋敷:火薬の研究をしていた浪人一家が住んでいた屋敷。しかし不義密通の疑いで妻と按摩を手打ちにし、息子を殺して自害した為廃屋になっていた。その廃屋から夜な夜な按摩の笛の音が聞こえ、更には按摩や浪人の妻の幽霊が現れて…
→豆太郎の生い立ちからくる性格がツライ…しかし彼は元気に腕白に育って良かったね!と思った。ちょっと大人を馬鹿にしているというか、そんなところもこどもっぽくて愛らしいよね。幸せになって欲しい。

・墓石くずし:放火で焼け死んだ酒屋の主人の墓石が、娘の許婚に倒れ込んできて片腕を失ったという。放火犯は捕らえられていたが無実を訴え続けている。墓石が倒れたのは主人の祟りなのだろうか…
→江戸時代の放火は超重罪だから、濡れ衣を着せられた無実の男への拷問を考えるとぞっとする…生きて放免されたんだろうか…

・丹塗りの箱:烏天狗と名乗る盗賊に盗まれた「楊貴妃の笄」と呼ばれる品。烏天狗は捕らえたが盗品は見つからないままだった。江戸の目明したちが奔走する中、瓢庵の元には悪人の手に渡った恋歌とも取れる和歌を取り返して欲しいという依頼が舞い込んで…
→「ボヘミアの醜聞」的な話かと思いきや…

・雪折れ忠臣蔵:商家の一人娘が誘拐され、犯人から脅迫状が届く。主人に頼まれた瓢庵は脅迫状に従って行動する主人の跡を追うが…
→意外な展開だった。そんで犯人は本当の悪人として終わっても良かったのにそうじゃないのが甘いっちゃ甘いが瓢庵ものとしては良い選択だと思う。

・藤棚の女:愛猫家の常磐津の師匠が猫の墓参りにやって来たが、その場で連れていた仔猫を野犬に食い殺されてしまった。ショックで気の触れた彼女は寺の藤棚で首を吊ってしまったという…
→解題にもあったけど、何故この犯人が断罪されなかったのか解せない。師匠殺され損じゃん…

・初雪富士:香六の知り合いの番頭が大道騙りをしているのを目撃するが、番頭は人違いだと言う。後日、番頭に尋ねると自分の分身が現れて困っているのだと話す…
→ドッペルゲンガア!!

・にゃんこん騒動:酒屋で盗みの騒動が起きた。泥棒は庭に倒れ瀕死の状態であったが「猫にやられた」と言い残し死んでしまう。御用聞きの辰五郎はその盗賊・稲荷小僧の相棒である猫十を捕らえたが、彼は屋敷の外で見張っていただけで、中には入っていないし殺してもいないと頑なに殺害を認めなかった…
→稲荷小僧とは「稲荷騒動」に出てきた狐小僧の事らしい…名前、変わっとるやん。因みにここに出てくる辰五郎は佐七の手先の辰五郎とは別人である。ややこしいな。

・月下の婚礼:絵草子屋の寄合いに出かけたまま二日も戻ってこない主人を心配した妻が瓢庵の元に相談にやって来た。主人の手紙を持ってやってきた乞食が主人の忘れ物を受け取り駕籠に乗って去って行った事に不審を抱いたと言うが…
→これもドイルのアレが元ネタ。

・死神かんざし:連続して美人が殺される事件が起きる。被害者は殺される前に見知らぬ人物から簪を貰っていたという…
→眼球綺譚。

みずたに・じゅん(1904-2001)
北海道生まれ。本名・納谷三千男。
早稲田高等学院在学中の1922年、『新青年』の探偵小説募集に「好敵手」が入選してデビュー。早大仏文科卒業後、『新青年』の編集に従事。
戦後、作家専業となり1951年には「ある決闘」で第5回探偵作家クラブ賞を受賞するが60年代で創作の筆は途絶える。
2001年肺癌により死去。
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