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・創作篇
三つの樽 ※クロフツ『樽』ネタバレ有
事故を起こしたトラックから落ちた二つの樽。
一つは空で、どこかへ転がっていってしまったが、もう一つの樽には女性の死体が詰められていた。
樽の送り主は彫刻家で、樽には石像が運送屋の目の前で梱包されていた。しかもそれを手伝っていたのは樽から死体となって発見されたモデルの女性だった。
冒頭は何だかすンごい犯罪だ!と思ったけど、最後は犯人の自滅ってゆうオチでちょっとがっかり。
因みに彼の探偵小説に登場する探偵は二人いて、一人は満城(みつき)警部補というシムノンのメグレ警部を彷彿とさせる巨漢の男性。
地道な捜査で犯人を追い詰めるので「和製メーグレ」と渾名されている。いつもむっつりしていてニコリともしないパイプ愛好家。
もう一人は三原検事。ファイロ・ヴァンスが好きらしく、捜査に心理実験を用いたり、会議で事件とは無関係と思われる学術的な長話をしたりする。
実はそれが事件と関係がある話だと気付く人間がいるか試すためだったりするので、多分職場で嫌われているとオモウ。

新納(にいろ)の棺
新納家四兄弟のうち、三人が一週間の間に死亡した。
長男が脳溢血で死亡した翌日に次男も脳溢血で死亡しているのが発見され、葬儀の帰りの汽車内で長女が青酸カリによって毒殺されたのだ。
遺産の殆どを相続する事になった三男と、長男の保険金を受け取った若い嫁に容疑がかかるが、どうやって兄弟を殺したのか。
容疑者の特定は、二人が犯行を仄めかす会話をしていたのを満城警部補が盗み聞きしていたからな訳でして…
マア、ちゃんと裏を取ったりしてるけど、例の「第三の尋問」によって犯人を自滅に追い込むのは単に三原検事の趣味だと思う。
で、ちょっと疑問なんだけど、長女毒殺のトリックに利用された柿羊羹なるお土産。
羊羹の材料って寒天だよね?カプセルの時差で毒が回ったのだから、解剖の結果寒天とゼラチンが検出されるんじゃないの?当時は寒天とゼラチンを区別出来る程精密な結果が出せなかったんだろうか…
結構、犯罪捜査の技術って侮れん程進んでいたようなのにうーん…

不知火 ※ヴァン、ルルー、ルブラン、島久平、乱歩作品のネタバレ有
不思議現象・不知火(しらぬい)を気象学的に解明しようとする博士と、不知火信仰で栄えていた部落の長。
博士の妻が何者かに襲われ、隣室にいた青年が殺害される。現場の階下には酩酊していたとはいえ、四人の若者が屯し、また、下男下女もいたにも関わらず、犯人の姿はどこにもなかった。
博士の不知火観測日、部落の長の娘が儀式の最中に焼死。博士も入浴中に頭を砕かれて殺されてしまう。
虫太郎程の読み難さはないけれど、人によっては読むのが面倒くさいと思われるペダンティックな作品。
運命に翻弄された女の悲しい結末。

ニッポン・海鷹(シーホーク) ※ヴァン作品ネタバレ有
海上から姿を消した大型和船。二ヵ月後の霧の濃い日、猟師達の目の前に突然現れ、再び姿を消してしまった。
残されていたのは、その和船の盾(※昔の船には、海賊が襲ってきた時用に常備されていたらしい)に括り付けられ、矢で胸を刺された男の死体だった。
同じ頃、一人の都会の青年が部落の掟によって処刑される。しかし死体を確認すると、全く別の男の死体にすり替わっていた。
海賊の財宝伝説や、特殊な部落への差別や偏見、村のしきたり、一族の血…これらの宿命に翻弄される人々の悲しい話。

南泉斬猫(なんせんざんみょう)
「国宝にしよう」運動の起こった猫見櫓が何者かによって燃やされてしまう。国宝にする事で入ってくる金を目当てに、市と町の政治家達が権利を取り合いしていたものだったので、捜査は難航。
後日、近くの竹やぶで、首と胴が殆ど切断されたホステスの死体が発見される。
彼女は猫見櫓の利権で対立する二人の政治家達から口説かれており、事件当日も放火のあった日も三人で一緒にいたのだった。
「動機なき殺人」の犯人は…??

瓢(ひさご)と鯰(なまず)
瓢箪収集家の長男の未亡人が滝壺に落ちて死んだ。自殺か、過失か、あるいは殺人なのか。
その後の捜査で凶器及び「被害者が滝壺に落ちるまでに時差を作るトリック」が判明したが、容疑者であった被害者の婚約者が砂の詰まった大きな瓢箪の下敷きになって死亡した。
これ、犯人はものすごく自分勝手な動機でもって二人を殺すんだけど、オチがなんか奇麗にまとまってる感じがする。

髭のある自画像
画壇の大家が絞殺され、線路上に遺棄される事件が起こる。詳しく調べると、死体は別の画家である事が判った。
贋作問題とか、スランプとか、芸術論とか…事件の背後にある問題に、私はすごく魅かれる。魅かれる?何と言うか、すごく焦燥感に駆られました。

雪のなかの標的
鴨撃ちに行った四人のハンター。銃声がしたので立ち止まって振り返ると、もう一発の銃声が。
銃弾はハンターの一人を撃ち抜き、犯人は無人の小屋に逃げていった。
一人は怪我人の介抱の為残り、残るハンター二人と、銃声を聞きつけた農夫が小屋を見張っていた。
地元の警察官達が駆けつけ、小屋に踏み込むと、そこには首吊り死体がぶら下がっていた。
「犯人の性格上、自殺をするなんて考えられない」という人々の話により、満城警部補と三原検事が事件を調査する。

世木氏・最後の旅
吊橋から転落した男女の死体は、大阪から九州旅行に来ていた世木氏とその妻と判明。
事故か自殺か、あるいは他殺かを調べるうちに、世木氏と思われていた男性が背格好の似た別人だという事が判明した。
私の苦手な時刻表トリックです、案の定乗り換えとかちんぷんかんぷんでした。
私ほんと数字が出てくるトリックわからん。

ある密室の設定 ※ヴァン、ポーのネタバレ有
鍵をかけずに五分程留守にしていた間に内側から鍵をかけられたホステスの部屋。何の被害もなかったので、「密室騒動」は有耶無耶になったが、後日そのホステスが殺害される。
入り口は施錠されていたが、窓には鍵がかかっておらず、被害者のベッドの下からは窓からの出入りに使用されていたロープが、現場から離れた川の中からは被害者の血の着いた凶器がハンカチに包まれて発見された。
容疑者として浮上したのは、ホステスの部屋の向かいに住んでいる女性探偵小説家。しかし彼女は交通事故で足を怪我していて松葉杖なしでは動けないでいた。

・評論・随筆篇
「動機のない動機」の魅力/本格派の文学理論/惨殺された本格派/“伝奇”は虚構ではない―探偵小説の構成に関する一考察/新・本格派への待望―芭蕉は一人だけで沢山だ/本格派の陰謀―戦後派の探偵小説観/乱歩・文字の非文字
木々高太郎と甲賀三郎の抗争の時のものでしょうね、文学論についての意見を述べるものが殆どです。
私は甲賀さんより木々さんのが面白いと思って読んでるけど、宮原さんの評論とか読むと木々さんの印象すげー悪くなりました。流されやすいのです。

みやはら・たつお(1915-2008)
佐賀県佐賀市生まれ。本名は龍男
1949年『宝石』主催の百万円の懸賞付き探偵小説コンクールに「三つの樽」が三等入選。
中・短編を30作程発表するが、62年「葦のなかの犯罪」で筆を断つ。
76年に「マクベス殺人事件」を発表した後は再び執筆する事無く歿する。
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