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海外のミステリはエラリー・クイーンも好きだし、カーの『皇帝のかぎ煙草入れ』も好きだ、ミステリでここまで人間臭い登場人物を書いてる人初めて読んだ!と感動したジル・マゴーンだってだいすきだし、『毒入りチョコレート事件』なんて6人の犯罪愛好家達が一人ずつ推理を披露して誰がより真相に近づけるかという知恵比べってのが斬新!と思ったので好きだ。
でもこのバリンジャーの『歯と爪』は別格。私の浅く狭く短いミステリ歴で最も優れたミステリだと思ってる。最近そう思った。
歯と爪の凄いところ。
主人公の奇術師が顔も本名も知らない男をロジックと勘と地道な捜査で見つけ出すところ。そして復讐を成し遂げたところ。さらには自分は罪に問われることなく姿を消した事、すなわち、彼自身をこの世から抹殺してしまったところ。そいでもって極めつけ、真相が判るちょっとまえの233頁以降が袋とじになっていて、「意外な結末が待っているけどここで読むのをやめて封を切らずに出版社へ返品した人には代金お返しします」と銘打ってあるところ!こんな事相当自信なきゃ出来ん。

本編は奇術師が妻となり、のちに自殺にみせかけて殺されてしまう女性と出会う場面から話が始まり、以降奇術師の一人称と、ある裁判に関しての話が描かれている。
奇術師が復讐相手を探し出し、殺害に至るまでの計画を読ませつつ、そのあいだあいだに死体なき殺人事件の裁判風景が書かれている(しかも被告の名前は後半まで全く出てこない)ので、復讐はしたけど捕まったのか?と思わせぶりな書かれ方なのだよー。
しかもこの裁判が日本でも導入された裁判員がいる話なので興味深い。マァ裁判員はメインではないので、検事と弁護士がどのような思惑で公判を進めているのかという心理的な面が描かれているところが、それはそれで面白いのです。

で、何が最高のミステリだと私に思わせているのか。
以下オチにふれながら絞殺。もとい考察。
ネタばらさんと最高さを説明出来ない・・・ぐー、はがゆい・・・!!

+ + + + + + + + + +
顔も名前も判らない男を聞き込みと推理と執念で見つけ出して、不自然にならないようにその男と接触し、雇われ運転手になってまで復讐をしようとする奇術師の原動力が凄いと思う。
毎日復讐相手と顔を突き合わせながらどうやって殺してやろうかをひたすら考え抜く狂気を孕んだ日常を営む精神。こんな話思いつくだけでもバリンジャーは凄いなー。
なんか色々歯と爪論をぶちまけたかったけど、私はドウにも考えている事がするすると抜け落ちてゆく頭の造りをしているようなので、折角風呂で考えといた「ここがこうでああだからそうなのよ!」というネタをすっかり失ってしまったので簡潔に書く。
つまり、奇術師リュウは見事に裁判長も警察も検事も裁判員も欺き、ありもしない犯罪=レディック殺しのかどでグリーンリーフを有罪にしたところが凄いところそのいち。グリーンリーフはレディック殺しに関しては無罪だが、偽札作ったり、それに関わった人物を少なくとも3人は殺害している本物の犯罪者なのである。法の網を掻い潜って悪事を働いていた男が法によって抹殺される事になる皮肉さ。
それから、ここが私的にいちばん好きなところだが、復讐を成し遂げやったねハッピーエンド!とはならず、奇術師として大事な指を失ったリュウが、サーカスで最も低く見られている道化としてしか生活できなくなってしまったところ。リュウはフーディニにも負けず劣らずの才能ある奇術師であったのだから、ピエロとして生涯を過ごさなければならないのは本当に屈辱的な事だと思う。
罪を犯しながら裁かれることが無かったが最期に罠に陥り監獄の中で生涯を過ごす事になった男と、愛する妻と指を失い復讐だけが生きる糧だった男の末路にはほんの欠片も救いがない。悪い事しても、そいつを懲らしめてもなににもならないってゆう虚しさだけが残る感じがサイコウに好きなのである。
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寝ても覚めてもミステリが好き。最近はもっぱら「探偵小説」ブームで新しい作家さんを良く知らない。
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