[創作篇]
・彼が殺したか:嵐の夜、小田夫妻が殺害される。使用人達が夫婦の寝室へ駆けつけた時、その家に宿泊してた大寺が凶器のナイフを持って立ち尽くしていた。
大寺はその場で取り押さえられ、逮捕二日目に犯行を自供。彼の無実を信じる友人から頼まれた弁護士は公判で自供は強要されたものだと大寺が訴えるかと思ったが、彼は犯行を認めるに留まらず、小田の妻と不倫関係にあったと暴露する。
大寺は死刑判決を受け処刑されたが、彼が残した遺書には思いがけない真相が書かれていた…
→大寺の遺書を手に入れた弁護士が小説家たちに真相はどうだったんだろうと問題提起する作品です。
法の不完全さとか人が人を裁く事の重大さとかを書き続けていた四郎らしさが出てます。
それにしても、道子が愛したのは夫か自分かと煩悶しながら死んでいった大寺に対して弁護士が放つ第二の解釈が容赦なくて好き。だって私もこの意見支持派じゃから。道子はまともに人を愛せない女だったと思うよ、性格破綻者というか…そうじゃなきゃあんな振る舞いせんじゃろ。
・黄昏の告白:自殺を企てた戯曲者の最期の告白。
→だいたいオチ読めます、ちょっとこの男ライバルをライバル視し過ぎで視野が狭くなってる。ライバルはとばっちりで悪者扱いかわいそう。
・富士妙子の死:未婚で妊娠してしまった妙子は、思い詰めて堕胎する決意をする。恋人から堕胎の薬を貰い服用するが彼女自身が死んでしまう。
逮捕された恋人は、殺意を否認。彼女に対する殺意はあったのかなかったのか…
→ふたりともばかだなぁというかんじ。
・正義:ホテルの宿泊客が拳銃で自殺したが、左利きの客が右手に拳銃を握っていた事、第一発見者のボーイが呼ばれてもいないのに宿泊客の部屋に勝手に入った事、死体発見後借金を清算していた事などから金に困ったボーイが客を殺害し現金を奪ったとして逮捕された。
ボーイは、その客は何度かホテルを利用しており、容疑者と懇意となっていて、お金は事件の日客から貰ったと供述する。彼に金を渡したあと、隠し持っていた拳銃で頭を撃ち抜いたと言うが…
→ボーイの弁護をしている男の元に旧友が訪ねてきて、事件を目撃した男の話をするんだけど、こっからがタイトル「正義」に関わってくるのです。
・島原絵巻:ある画家の遺作を見せてもらった探偵小説家。それは島原でのキリスト教徒大量虐殺を描いたものと、若い男女の殉教の瞬間を描いたものだった。その画家は、リアリティを追及するあまり恐ろしい犯罪を犯したのだった…
→関東大震災に紛れて行われ、震災死と見做された犯罪や事件自体が震災で消されたものがなかったとは言い切れない、という考えのもとに書かれたような一作です。画家の絵に懸ける恐ろしいまでの情熱。『極める』って、ほんと、狂気と紙一重。
・探偵小説作家の死:探偵小説家Aが作家仲間のBを殺そうと決意する。それを主人公の探偵小説家で犯人aが作家仲間bを殺害する作品として発表した後、現実でAがBを殺したとしてもAはBに対する殺意を作品として発表してしまっているので、かえって犯人ではないと見做されるという考えに基づいた、師弟関係にある探偵小説家ふたりの話。
→ややこしい。
・虚実―あり得る場合―:医師である弟が兄の開腹手術中に脳貧血を起こし倒れる。弟が意識を取り戻した時には兄は死んでいた。兄の死後、兄嫁と結婚した弟は妻と旅行先で溺死した…。私は、真相はこうではないかと考えたものを以下に記す。
→あると思います。
・不幸な人達:睡眠薬の効き目を信じない令嬢に一泡吹かせる為、こっそり酒に睡眠薬を混ぜた男。しかしその睡眠薬は一定量以上を服用すると死に至るもので…
→めんどくさいひとたち。というか男に対する令嬢の態度が冷た過ぎる(二人は想い合っている)からって気を利かせた(?)友人が一番災難だとオモウ。
・救助の権利:自殺しようとした女を助けた男が、女の自殺する理由を知って同情し殺した。判事は彼に死刑判決を下す。その日の帰り道、判事は自殺しようとする女を見つけ助ける。で、こんな場合の判事の心理が上手く書けない。本職が判事の君ならどう思うかと小説家が問うと、友人の判事は「今日、君の小説にしようとしている話と良く似た事件の公判があった」と言い、一通の手紙を渡した。それは犯人の陳述書だった…
→死にたい人間を他者が助ける義務も権利も無い、という話。たった一円で人の命を救おうとした金満家のじじいの偽善(他に三百円持ってるって見せびらかしといて百円の借金を拒んだ為に殺された)が私は気に食わないので、殺されたって仕方ないと思ってしまう。そうだ、人の生き死にを金で如何こうしようなんておこがましい行為なのだ。
[評論・随筆篇]
探偵小説の将来/運命的な問題―「華やかな罪過」読後感―/筆の犯罪<炉辺物語>/江戸川乱歩の持ち味―その全集出版に際して―/探偵小説作家の精力/江戸川乱歩氏について/探偵小説を中心として/犯罪文学と探偵物―その区別とその方法―
*
アンケート
「華やかな罪過」は平林初之輔の短編。実際問題として、この女は何らかの罪に問われるのか法律家として教えて!てゆうリクエストに答えたもの。ふんふん成程ー。最後の「私が彼女だったらまずこんな男を好きにならん」て切り捨てるとこが面白い。
はまお・しろう(1896-1935)
東京生まれ。
医学博士・加藤照磨男爵の四男として生まれる。浜尾子爵の娘と結婚し養子となる。実弟に喜劇俳優の古川緑波。
1923年東京帝国大学法学部卒業、25年東京地方裁判所検事に就任。
28年に辞職し弁護士を開業。29年、処女作「彼が殺したか」を発表。
33年、貴族院議員に当選。35年、脳溢血により急逝。
・彼が殺したか:嵐の夜、小田夫妻が殺害される。使用人達が夫婦の寝室へ駆けつけた時、その家に宿泊してた大寺が凶器のナイフを持って立ち尽くしていた。
大寺はその場で取り押さえられ、逮捕二日目に犯行を自供。彼の無実を信じる友人から頼まれた弁護士は公判で自供は強要されたものだと大寺が訴えるかと思ったが、彼は犯行を認めるに留まらず、小田の妻と不倫関係にあったと暴露する。
大寺は死刑判決を受け処刑されたが、彼が残した遺書には思いがけない真相が書かれていた…
→大寺の遺書を手に入れた弁護士が小説家たちに真相はどうだったんだろうと問題提起する作品です。
法の不完全さとか人が人を裁く事の重大さとかを書き続けていた四郎らしさが出てます。
それにしても、道子が愛したのは夫か自分かと煩悶しながら死んでいった大寺に対して弁護士が放つ第二の解釈が容赦なくて好き。だって私もこの意見支持派じゃから。道子はまともに人を愛せない女だったと思うよ、性格破綻者というか…そうじゃなきゃあんな振る舞いせんじゃろ。
・黄昏の告白:自殺を企てた戯曲者の最期の告白。
→だいたいオチ読めます、ちょっとこの男ライバルをライバル視し過ぎで視野が狭くなってる。ライバルはとばっちりで悪者扱いかわいそう。
・富士妙子の死:未婚で妊娠してしまった妙子は、思い詰めて堕胎する決意をする。恋人から堕胎の薬を貰い服用するが彼女自身が死んでしまう。
逮捕された恋人は、殺意を否認。彼女に対する殺意はあったのかなかったのか…
→ふたりともばかだなぁというかんじ。
・正義:ホテルの宿泊客が拳銃で自殺したが、左利きの客が右手に拳銃を握っていた事、第一発見者のボーイが呼ばれてもいないのに宿泊客の部屋に勝手に入った事、死体発見後借金を清算していた事などから金に困ったボーイが客を殺害し現金を奪ったとして逮捕された。
ボーイは、その客は何度かホテルを利用しており、容疑者と懇意となっていて、お金は事件の日客から貰ったと供述する。彼に金を渡したあと、隠し持っていた拳銃で頭を撃ち抜いたと言うが…
→ボーイの弁護をしている男の元に旧友が訪ねてきて、事件を目撃した男の話をするんだけど、こっからがタイトル「正義」に関わってくるのです。
・島原絵巻:ある画家の遺作を見せてもらった探偵小説家。それは島原でのキリスト教徒大量虐殺を描いたものと、若い男女の殉教の瞬間を描いたものだった。その画家は、リアリティを追及するあまり恐ろしい犯罪を犯したのだった…
→関東大震災に紛れて行われ、震災死と見做された犯罪や事件自体が震災で消されたものがなかったとは言い切れない、という考えのもとに書かれたような一作です。画家の絵に懸ける恐ろしいまでの情熱。『極める』って、ほんと、狂気と紙一重。
・探偵小説作家の死:探偵小説家Aが作家仲間のBを殺そうと決意する。それを主人公の探偵小説家で犯人aが作家仲間bを殺害する作品として発表した後、現実でAがBを殺したとしてもAはBに対する殺意を作品として発表してしまっているので、かえって犯人ではないと見做されるという考えに基づいた、師弟関係にある探偵小説家ふたりの話。
→ややこしい。
・虚実―あり得る場合―:医師である弟が兄の開腹手術中に脳貧血を起こし倒れる。弟が意識を取り戻した時には兄は死んでいた。兄の死後、兄嫁と結婚した弟は妻と旅行先で溺死した…。私は、真相はこうではないかと考えたものを以下に記す。
→あると思います。
・不幸な人達:睡眠薬の効き目を信じない令嬢に一泡吹かせる為、こっそり酒に睡眠薬を混ぜた男。しかしその睡眠薬は一定量以上を服用すると死に至るもので…
→めんどくさいひとたち。というか男に対する令嬢の態度が冷た過ぎる(二人は想い合っている)からって気を利かせた(?)友人が一番災難だとオモウ。
・救助の権利:自殺しようとした女を助けた男が、女の自殺する理由を知って同情し殺した。判事は彼に死刑判決を下す。その日の帰り道、判事は自殺しようとする女を見つけ助ける。で、こんな場合の判事の心理が上手く書けない。本職が判事の君ならどう思うかと小説家が問うと、友人の判事は「今日、君の小説にしようとしている話と良く似た事件の公判があった」と言い、一通の手紙を渡した。それは犯人の陳述書だった…
→死にたい人間を他者が助ける義務も権利も無い、という話。たった一円で人の命を救おうとした金満家のじじいの偽善(他に三百円持ってるって見せびらかしといて百円の借金を拒んだ為に殺された)が私は気に食わないので、殺されたって仕方ないと思ってしまう。そうだ、人の生き死にを金で如何こうしようなんておこがましい行為なのだ。
[評論・随筆篇]
探偵小説の将来/運命的な問題―「華やかな罪過」読後感―/筆の犯罪<炉辺物語>/江戸川乱歩の持ち味―その全集出版に際して―/探偵小説作家の精力/江戸川乱歩氏について/探偵小説を中心として/犯罪文学と探偵物―その区別とその方法―
*
アンケート
「華やかな罪過」は平林初之輔の短編。実際問題として、この女は何らかの罪に問われるのか法律家として教えて!てゆうリクエストに答えたもの。ふんふん成程ー。最後の「私が彼女だったらまずこんな男を好きにならん」て切り捨てるとこが面白い。
はまお・しろう(1896-1935)
東京生まれ。
医学博士・加藤照磨男爵の四男として生まれる。浜尾子爵の娘と結婚し養子となる。実弟に喜劇俳優の古川緑波。
1923年東京帝国大学法学部卒業、25年東京地方裁判所検事に就任。
28年に辞職し弁護士を開業。29年、処女作「彼が殺したか」を発表。
33年、貴族院議員に当選。35年、脳溢血により急逝。
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夫の急死で悲しみに暮れる未亡人とその関係者たち。
だが、その中の誰かが夫を毒殺したことが明らかにされる。
未亡人の幼馴染であるルパートは、ソーンダイクに真相の解明を依頼するのだが、やがてそれは考えもしなかった結末へと連なっていった。
(※本書見返しのあらすじを抜粋)
「考えもしなかった結末」とあるが、ミステリ読み慣れた人なら大体犯人も動機も、タイトルの意味も中盤で判ってしまうと思う。
それでもトリックまでは(私は)思い付かなかった。
犯人とか途中で判ってしまっても、面白さは損なわれないのがフリーマンの良いところだよね。
翻訳の加減にもよるだろうけど、1928年に発表されたにも関わらず古臭さを感じさせない。…訳者の力量なのかなやっぱ…だって、エラリーとかそうとう読み難かったし…
余談だけど、解説で登場人物の重大なネタバレするのやめて欲しい…オシリスにも書かれてたから知ってるけどさー…ネタバレするのは本書に書かれてる事だけにしてよ。
だが、その中の誰かが夫を毒殺したことが明らかにされる。
未亡人の幼馴染であるルパートは、ソーンダイクに真相の解明を依頼するのだが、やがてそれは考えもしなかった結末へと連なっていった。
(※本書見返しのあらすじを抜粋)
「考えもしなかった結末」とあるが、ミステリ読み慣れた人なら大体犯人も動機も、タイトルの意味も中盤で判ってしまうと思う。
それでもトリックまでは(私は)思い付かなかった。
犯人とか途中で判ってしまっても、面白さは損なわれないのがフリーマンの良いところだよね。
翻訳の加減にもよるだろうけど、1928年に発表されたにも関わらず古臭さを感じさせない。…訳者の力量なのかなやっぱ…だって、エラリーとかそうとう読み難かったし…
余談だけど、解説で登場人物の重大なネタバレするのやめて欲しい…オシリスにも書かれてたから知ってるけどさー…ネタバレするのは本書に書かれてる事だけにしてよ。
先月上旬に読み終えて放置してたから記憶があやふやであらすじうまく書けません。忘れてる作品もある…
読んだらこまめに感想メモしなきゃだなぁああ…
[創作篇]
・皮剝獄門:恩のある老人を殺した罪で打ち首された上に顔の皮を剥がされ晒し首にされた男の息子が、せめて父の骨だけでも故郷に連れ帰ろうと江戸に辿り着いたのは処刑から一年も経っていた。父は冤罪で処刑された可能性があるという話を聞いた息子は、その噂話をしていた男達に協力を仰ぎ、父の汚名を雪ごうとする…
タイトル、いきなり残酷系かよと思って身構えてしまった。大岡越前ものだった。この話なかなか良いよ、夫の泰のよりミステリしてる。
・真珠の首飾:差出人不明の小包に入っていた真珠の首飾り。どうせ良く出来たイミテーションだと思っていたが、本物である事を知る。高価なものは受け取れないと差出人と思しき同僚の男を捜すが彼は既に退職した後だった。さらに、会社の金が横領されていた事が発覚。首飾りと同額だった為、元同僚が横領したのではと疑って…
ロマンス。オチは完全に読めるけど、こうゆうの嫌いじゃあないよ。てゆうか最後、まさかのメタ文章でちょっと驚いたよ。
・白い手:警視総監を目指す警察の探偵は、近頃電車でスリを働く者の正体を「地下鉄サム」と推理し手柄を挙げようと婚約者そっちのけで職務に勤しむが…
探偵、それで良いのか…
・万年筆の由来:失恋男のぐだぐだ愚痴っぽい話。
・手:轢死者が出たので野次馬しに行く画家。死んだのは地主の弟で評判の悪い男だった。
画家という職業からか、独特の視点で事件を考察されていて面白い。(ネタバレ反転)科学的根拠がないから完全犯罪になる筈だったけど、犯人のメンタルが弱過ぎて自滅してしまうのは、彼が善人だって証でもあるよね…(反転終わり)
・無生物がものを云ふ時:行動に矛盾がある上殺害動機があり、目撃証言からも有罪だと見做された夫の無実を証明しようとする妻からの手紙。
・赤い帽子:おきゃん
・子供の日記:父が死に母子家庭で母の妹と暮す子どもの日記。母と叔母が嫌う親戚の婦人とそうめんを食べていて母親が死んでしまった前後の事。
これは…瀬下耽とか妹尾アキ夫とかで読んで辛くなったパタンのやつや…子ども視点のって、ほんと、将来真実を知ったとき、この子ドウなっちゃうのって考えて勝手に辛くなる…BBAの習性なんじゃ…
・雨:
忘れた。
*
・黒い靴:飼い犬がいなくなり心配する女性。恋人は仕事ばかりで構ってくれない。諦めてよく似た犬をもらいバスに乗っていると、犬を捜している時に出会った青年とすれ違い…
バスの話は、恵子と泰の間で実際に起きた事なんだって。因みに「黒い靴」は、飼っていた犬の足だけ黒かった事に由来。
・ユダの歎き
キリストを裏切ったユダの心理の動きが書かれているんだけど、如何せんこれといった信仰がないから最後まで読みきれなかった…
[翻訳・翻案篇]
・節約狂:金持ちなのにすっごく吝嗇な男の家に世間を騒がせている泥棒が入った。その泥棒の正体を暴いて会社が損しないように出来ます!という意気込みを買われて保険会社に入社した主人公が吝嗇金持ちの元へ調査に行く。盗まれたのは銀食器ばかりで、本人と女中が在宅だったにも関わらず泥棒に入られた事に気付かなかったと言うが…
これ面白かった。
・盗賊の後嗣:大盗賊の息子がちゃちな盗みしかしなくて嘆かわしいという父親。息子が盗んだ懐中時計の持ち主が金持ちだと知り、落し物を届けに来たと言って金持ちと懇意になりもっと金目のものを盗んで来いと息子に試練を与えるが…
・拭はれざるナイフ
・懐中物御用心
[評論・随筆篇]
・オルチー夫人の出世作に就いて
・密輸入者と「毒鳥」:シベリア経由でイギリスへ行った時の、列車での出来事を書いたもの。
・あの朝:泰が亡くなった日の事を書いたもの。泰を失った悲しみを表現した文章がとても奇麗なんだ…
・思ひ出
・夢:よく正夢見たという話。泰も正夢見る事があったとか。
・最初の女子聴講生:恵子は慶応初の女子学生だったらしい。その時の話。
・探偵雑誌を出していた頃の松本泰
・鼠が食べてしまった原稿
まつもと・けいこ(1891-1976)
北海道生まれ。別名・中野圭介。
父は北海道庁初代水産課長の伊藤一隆。
青山女学院英文専門科を卒業。ロンドンに日本語の家庭教師として赴任し、松本泰と知り合い結婚。1919年に夫婦で東京・谷戸で貸家業を始め、泰が刊行した「秘密探偵雑誌」に翻訳や小説を発表。
泰の死後は中国に渡り、北京でキリスト教婦人団体施設「愛隣館」の事業を助ける。終戦後帰国し、横浜で翻訳に従事。また、一時桜美林大学でも教鞭を取った。
1974年、児童文化功労賞受賞。
読んだらこまめに感想メモしなきゃだなぁああ…
[創作篇]
・皮剝獄門:恩のある老人を殺した罪で打ち首された上に顔の皮を剥がされ晒し首にされた男の息子が、せめて父の骨だけでも故郷に連れ帰ろうと江戸に辿り着いたのは処刑から一年も経っていた。父は冤罪で処刑された可能性があるという話を聞いた息子は、その噂話をしていた男達に協力を仰ぎ、父の汚名を雪ごうとする…
タイトル、いきなり残酷系かよと思って身構えてしまった。大岡越前ものだった。この話なかなか良いよ、夫の泰のよりミステリしてる。
・真珠の首飾:差出人不明の小包に入っていた真珠の首飾り。どうせ良く出来たイミテーションだと思っていたが、本物である事を知る。高価なものは受け取れないと差出人と思しき同僚の男を捜すが彼は既に退職した後だった。さらに、会社の金が横領されていた事が発覚。首飾りと同額だった為、元同僚が横領したのではと疑って…
ロマンス。オチは完全に読めるけど、こうゆうの嫌いじゃあないよ。てゆうか最後、まさかのメタ文章でちょっと驚いたよ。
・白い手:警視総監を目指す警察の探偵は、近頃電車でスリを働く者の正体を「地下鉄サム」と推理し手柄を挙げようと婚約者そっちのけで職務に勤しむが…
探偵、それで良いのか…
・万年筆の由来:失恋男のぐだぐだ愚痴っぽい話。
・手:轢死者が出たので野次馬しに行く画家。死んだのは地主の弟で評判の悪い男だった。
画家という職業からか、独特の視点で事件を考察されていて面白い。(ネタバレ反転)科学的根拠がないから完全犯罪になる筈だったけど、犯人のメンタルが弱過ぎて自滅してしまうのは、彼が善人だって証でもあるよね…(反転終わり)
・無生物がものを云ふ時:行動に矛盾がある上殺害動機があり、目撃証言からも有罪だと見做された夫の無実を証明しようとする妻からの手紙。
・赤い帽子:おきゃん
・子供の日記:父が死に母子家庭で母の妹と暮す子どもの日記。母と叔母が嫌う親戚の婦人とそうめんを食べていて母親が死んでしまった前後の事。
これは…瀬下耽とか妹尾アキ夫とかで読んで辛くなったパタンのやつや…子ども視点のって、ほんと、将来真実を知ったとき、この子ドウなっちゃうのって考えて勝手に辛くなる…BBAの習性なんじゃ…
・雨:
忘れた。
*
・黒い靴:飼い犬がいなくなり心配する女性。恋人は仕事ばかりで構ってくれない。諦めてよく似た犬をもらいバスに乗っていると、犬を捜している時に出会った青年とすれ違い…
バスの話は、恵子と泰の間で実際に起きた事なんだって。因みに「黒い靴」は、飼っていた犬の足だけ黒かった事に由来。
・ユダの歎き
キリストを裏切ったユダの心理の動きが書かれているんだけど、如何せんこれといった信仰がないから最後まで読みきれなかった…
[翻訳・翻案篇]
・節約狂:金持ちなのにすっごく吝嗇な男の家に世間を騒がせている泥棒が入った。その泥棒の正体を暴いて会社が損しないように出来ます!という意気込みを買われて保険会社に入社した主人公が吝嗇金持ちの元へ調査に行く。盗まれたのは銀食器ばかりで、本人と女中が在宅だったにも関わらず泥棒に入られた事に気付かなかったと言うが…
これ面白かった。
・盗賊の後嗣:大盗賊の息子がちゃちな盗みしかしなくて嘆かわしいという父親。息子が盗んだ懐中時計の持ち主が金持ちだと知り、落し物を届けに来たと言って金持ちと懇意になりもっと金目のものを盗んで来いと息子に試練を与えるが…
・拭はれざるナイフ
・懐中物御用心
[評論・随筆篇]
・オルチー夫人の出世作に就いて
・密輸入者と「毒鳥」:シベリア経由でイギリスへ行った時の、列車での出来事を書いたもの。
・あの朝:泰が亡くなった日の事を書いたもの。泰を失った悲しみを表現した文章がとても奇麗なんだ…
・思ひ出
・夢:よく正夢見たという話。泰も正夢見る事があったとか。
・最初の女子聴講生:恵子は慶応初の女子学生だったらしい。その時の話。
・探偵雑誌を出していた頃の松本泰
・鼠が食べてしまった原稿
まつもと・けいこ(1891-1976)
北海道生まれ。別名・中野圭介。
父は北海道庁初代水産課長の伊藤一隆。
青山女学院英文専門科を卒業。ロンドンに日本語の家庭教師として赴任し、松本泰と知り合い結婚。1919年に夫婦で東京・谷戸で貸家業を始め、泰が刊行した「秘密探偵雑誌」に翻訳や小説を発表。
泰の死後は中国に渡り、北京でキリスト教婦人団体施設「愛隣館」の事業を助ける。終戦後帰国し、横浜で翻訳に従事。また、一時桜美林大学でも教鞭を取った。
1974年、児童文化功労賞受賞。